羅針流「体験型」の旅

[テーマ性のある旅]
鉄道の旅

のんびりと車窓に流れる風景を楽しみながら、乗務員や居合わせた乗客と言葉を交わす。日本国内ではほぼ絶滅した食堂車で、その土地ならではの料理に舌鼓を打つ――。観光スポットをあわただしく見て回る旅とは異なり、鉄道の旅は、移動そのものも楽しめるのが醍醐味。羅針NAVIでは20年以上にわたって世界の鉄道を旅してきた長寿番組「世界の車窓から」のスタッフに、鉄道の旅の魅力を伺った。

[鉄道の旅]Chapter.1
「世界の車窓から」スタッフが特選した鉄道

「世界の車窓から」テレビ朝日系で放送中
「世界の車窓から あこがれの鉄道旅行」書籍シリーズ(DVD付)好評発売中

南米大陸南部に広がるパタゴニア地方に、世界中の鉄道ファンがあこがれる鉄道がある。それが「古きパタゴニアの急行列車」。小さな蒸気機関車が牽引する列車が毎月一往復、「地の果て」を思わせる大地を走っている。

「世界で一番おもしろい列車」

南米大陸南部、アルゼンチンのパタゴニアを行くオールド・パタゴニア急行は、小さな観光列車を除けば、最南端を運行する鉄道路線です。  この鉄道は世界的に有名ですが、そのきっかけになったのは一冊の本。鉄道好きのイギリス人の作家、ポール・セルーの「Old Patagonian Express」です。一種の鉄道紀行もので、アメリカ東海岸北部のボストンを振り出しに南北アメリカ大陸を鉄道で縦断した記録ですが、そのなかで最後に登場するのがオールド・パタゴニア急行。この世界的に有名な本によってオールド・パタゴニア急行は、「世界中の鉄道ファンがもっともあこがれる鉄道」になったんです。

世界中の鉄道ファンあこがれの土地、パタゴニア。

僕らは過去に2回、取材しています。最初に取材したころは、パタゴニア北部のインヘニエロ・ジャコバッチからエスケルまでの402キロを結んでいましたが、慢性的な赤字路線で、1993年には一旦廃線になっています。その後「こんなすばらしい鉄道は残さなくてはいけない」ということでボランティアが集まり、彼らの尽力もあり、地元のチュブット州が観光用に運転を再開、復活したという歴史があります。その際に現在のエスケル〜エル・マイテン間に路線は縮小されています。2度目の取材はその後に行い、1999年に放映されました。

オールド・パタゴニア急行はパタゴニアの大平原を走っていますから、とにかく「地の果て」のような荒涼とした風景がすごいし、野生の馬やダチョウ、放牧されている羊など見飽きません。まさに大自然のなかを突っ走っている感じ。しかも、年代ものの蒸気機関車でしょ。非常に味のあるいい鉄道です。

物思いにふける少女の横顔に旅情を覚えた。

日本からアルゼンチンの首都ブエノスアイレスまでアメリカ経由で飛び、さらにエスケルまで乗り継ぎと、乗車するには時間とお金がかかりますが、ぜひ一度は体験していただきたい、世界で一番おもしろい列車だと思いますね。(談)

語り/岡部憲治(「世界の車窓から」プロデューサー)
写真提供/テレコムスタッフ

野生動物が目を楽しませてくれる車窓風景。

オールド・パタゴニア急行の旅

特に観光名所もないエスケル。この小さな町は、世界の鉄道ファンの聖地なのだ。毎月一度、午前9時、甲高い汽笛が響く。線路幅わずか750ミリの小さな蒸気機関車、「オールド・パタゴニア急行」の出発だ。

パタゴニアは年間を通して冷え込み、強風が吹き荒れる「地の果て」を思わせる土地。農耕には適さず、手付かずの自然が多く残されている。その大地を165キロ先のエル・マイテンまで、平均時速30キロ、9時間以上かけて結んでいる。機関車はすべて1922年製。鉄道開通当時から使われている年代ものだ。終点のエル・マイテン駅構内に修理工場があり、エステル間を往復するたびにていねいなメンテナンスが施される。

機関車を愛する人々の努力によってこの鉄道は生き続ける。

終点のエル・マイテン駅で旅人と出会い、そして別れた。

寂寥とした車外の空気が忍び込んでくるようで、車内は妙にひっそりとしている。列車の揺れに身を任せる、ゆったりとした時間。レールのジョイント音、そして蒸気機関車特有のシュッシュッという金属音を立てながら、前進を続けるオールド・パタゴニア急行。時おり口笛のような汽笛の音が、ゆっくりと尾を引きながら荒野を流れていった。

終点に近づくほどに、乗客はどんどんまばらになっていく。終点のエル・マイテンに午後6時過ぎに到着。閑散としたホームには風が舞っていた。終着駅に特有の旅情が、降り立ったわずかな乗客を包み込む。車内で知り合った旅の仲間ともここでお別れ。それぞれの旅路が、また、はじまっていく。

地元の人々は無料で乗車できる。

どこまでも続くかのような大地を行く。

DATA
  走行距離165キロ  
所要時間9時間15分
運行本数月に1往復※
アクセス日本からアルゼンチンへの直行便は運航していないので、北米の各都市を経由してブエノスアイレスに向かう。そこからはエスケルまでの航空便あり。
※エスケル〜エル・マイテン間は月に1往復。その他、途中駅までの区間を往復する観光列車があり、夏季(1〜3月)および冬季(6〜8月)のハイシーズンは週5日(1〜2本/日)、3〜5月は週3本、9〜12月は週2本運行している。詳細は公式ホームページhttp://www.patagoniaexpress.comにてご確認ください。
古きパタゴニアの急行列車THE OLD PATAGONIAN EXPRESS〈中米編〉

「古きパタゴニアの急行列車THE OLD PATAGONIAN EXPRESS〈中米編〉」


(ポール・セルー著・阿川弘之訳、講談社、岡部氏所蔵)