各国ロングステイヤーからの現地レポート
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ポルトガル生活に溶け込んでいるアズレージョとは

名取友治さん、潮子さん(エストリル在住)2007年12月27日掲載

タイルの技法はイスラム文化が源

アズレージョはポルトガル固有の名称で、タイル画のことです。ポルトガルでもアズレージョといったり、タイル画といったりしますが、国立アズレージョ博物館があるくらいですから、ここではポルトガルのものはアズレージョで通します。
タイルを建物の外装に貼ったり、テーブルの天板に敷き詰めたりする技法は、アフリカ大陸北部のイスラム文化が源です。天をつくイスラム教のモスクには、あの幾何学的な模様を限りなく繰り返すタイルが使われており、そのタイルに光が反射することで荘厳な雰囲気をつくりだしています。

キリスト教の拝物主義とは全く反対に、徹底して偶像崇拝を廃するのがイスラムです。モスクががらんどうであるだけでなく、内外装ともに、具象的な表現は一切ありません。その代わりが三角や四角、ひし形など多面的形状と、その彩りです。もちろん形と色には、それぞれ宗教的あるいは哲学的、又は生活上の意味があるのでしょう。
このアラビア文化を源流とするタイルは、古代ローマ以降、スペインやポルトガル及び地中海周辺地域に進入したムーア人などによって普及し、いわばヨーロッパ圏の陶器製造の下地をつくったわけです。なかでもフランダース地域(オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ)とスペイン、イタリアでは、それらが現在の陶芸として、さらには中国や日本との混交により、文化的な発展を遂げています。

リスボン市内の小高い丘のうえにあるフロンタイラ宮殿の「モンキービジネス」。左端の「ギョロ目猫」は当館の代表的なキャラクター。宮殿は18世紀の大地震を奇跡的に免れて収蔵されているアズレージョは、まるで「鳥獣戯画」を髣髴させる賑やかさで貴重。

リスボン市内の小高い丘のうえにあるフロンタイラ宮殿の「モンキービジネス」。左端の「ギョロ目猫」は当館の代表的なキャラクター。宮殿は18世紀の大地震を奇跡的に免れて収蔵されているアズレージョは、まるで「鳥獣戯画」を髣髴させる賑やかさで貴重。

リスボン市内から少し外れた高速道路入口の擁壁で、1970〜80年につくられたもの。高さ15m超、幅70〜80mにも及ぶ。写真ではわかりにくいが、この巨大さと色の見事さは、雨の日でもあったせいか、京都加茂川の友禅流しを思い出させた。

リスボン市内から少し外れた高速道路入口の擁壁で、1970〜80年につくられたもの。高さ15m超、幅70〜80mにも及ぶ。写真ではわかりにくいが、この巨大さと色の見事さは、雨の日でもあったせいか、京都加茂川の友禅流しを思い出させた。

ポルトガルで独自に発展していった

ポルトガルのタイルは、これらヨーロッパ諸国とは、いささか異なる展開をして、連綿として今に至るアズレージョ文化を培ってきました。イスラム圏から解放されてしばらくした15世紀ころ、先のフランダースやイタリアなどから職人を招聘して、タイル技術を取り入れたのがはじまりです。
アイデンティティを重視するポルトガル独特の建国の精神からか、導入したものの上に、独自の表現様式と使用対象を編み出したのです。表現の対象はとことん具象化、使用対象は器の世界から大きく飛び出して、教会と商店の建物に徹底利用、このふたつがアズレージョを発展させた土台といえます。
この結果ポルトガルの陶器はあまり世界に名を馳せていませんが、その分安くて、実に多彩な作品が手近かにあります。代表的なものが「キャベツの食器」で有名な風刺画家にして陶芸家のボルダロの作品群です。彼が開いた窯元では、陶芸の概念を一変させる斬新さが漂い続けています。
アズレージョは国の文化的な財産ですから、国立博物館があるばかりでなく、若手芸術家を起用した擁壁や建築など公共施設の作品群、1998年のEXPOを期した地下鉄構内作品集等々、多面的な普及が意識されています。また一時代最大のスポンサーだった教会に残されたアズレージョの数々は、他の国々では見ることのできない、全く別の教会「世界」が広がり、訪れる人々を感動させます。

ボルダオの窯元があるカルダス・ダ・ライーニャの陶芸博物館で見つけた、「子どもの遊び」を一連のテーマにしたかわいらしい作品。ブランコやけんけん、玉入れなどを楽しむ懐かしい子どもの姿が、アズレージョの原点ともいえるアズール(青い)一色で描かれている。

ボルダオの窯元があるカルダス・ダ・ライーニャの陶芸博物館で見つけた、「子どもの遊び」を一連のテーマにしたかわいらしい作品。ブランコやけんけん、玉入れなどを楽しむ懐かしい子どもの姿が、アズレージョの原点ともいえるアズール(青い)一色で描かれている。

記念日にはオリジナルをオーダー

リスボンから西に15キロほどのところに、カルカベーロシュという古い町があり、そのはずれに新興ニュータウンが広がっています。古い町並みはほんの1キロほどですが、18世紀頃のアズレージョを正面に配した壁の商店街が連なっています。
それまで新興住宅を左右に見ていたのが、少し下り坂を降りたとたんに突然ひと時代タイムスリップしたような旧市街が広がっています。数十軒の間口の狭い商店はいずれも営業していました。ファサードは古めかしいのですが、窓をのぞくと全くおしゃれな床屋だったり、眼鏡屋だったり…。
また、リスボン市内にある国立アズレージョ博物館では、画学生たちが実習したり、希望する一般客に教えたり、時代の最新作品を特別展示して、若手の輩出を促したりしています。こうした影響からか、アズレージョに傾倒した日本人が、とうとうポルトガルに住み着き、住まいに窯を設けて焼いているとも聞きます。
無精者の私は、やれ結婚記念だ、だれそれの誕生日だというと、近所で知り合った「アズレージョ屋」に駆け込んで、あれこれと絵柄に注文をつけて製作を依頼します。リスボン市内では簡単に驚くような値がついていますが、郊外のせいもあってか、手頃な値で、しかも丁寧なつくりで、1枚から応じてくれます。

カルカベーロシュの旧商店街のひとつ、入ると奥深いレストラン。青一色で人の絵柄というのは、18世紀の流行のようだ。今となってはメンテナンスが大変で、どこでも国や自治体が工事費を補填している。

カルカベーロシュの旧商店街のひとつ、入ると奥深いレストラン。青一色で人の絵柄というのは、18世紀の流行のようだ。今となってはメンテナンスが大変で、どこでも国や自治体が工事費を補填している。

リスボン大学前駅の構内アズレージョ。98EXPO記念に、陶芸家を総動員して地下鉄駅をキャンパスにして作品展を繰り広げた。元々全国の鉄道駅の随所にアズレージョは見られるが、地下鉄のそれはモダン版。知識の象徴ミミズクの先には、ポルトガルとギリシャの哲人が並ぶ。

リスボン大学前駅の構内アズレージョ。98EXPO記念に、陶芸家を総動員して地下鉄駅をキャンパスにして作品展を繰り広げた。元々全国の鉄道駅の随所にアズレージョは見られるが、地下鉄のそれはモダン版。知識の象徴ミミズクの先には、ポルトガルとギリシャの哲人が並ぶ。

Photo: Masahiro Ohashi

Photo: Masahiro Ohashi

名取友治(なとり・ともはる)さん、潮子(しおこ)さんプロフィール

共働きを続けてきた名取夫妻の現役時代の楽しみは娘たちとの海外旅行。20年ほど前に家族旅行ではじめて訪れたときに気に入ったポルトガルで、リタイアしたらロングステイをしたいと考えていた。2005年10〜12月の2か月間、リスボン近郊の海辺のリゾート、カスカイスでロングステイを楽しみ、さらに2006年8月〜2007年6月の10か月間、リスボンで下町暮らしを体験。現在はリスボンから電車で30分ほどの大西洋に面した町、エストリルに滞在中。ゴルフや歴史散策、劇場通いなどを楽しんでいる。