各国ロングステイヤーからの現地レポート
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フィリピン生活に欠かせないバスの乗り心地は?

上野勲(いさお)さん、展子(のぶこ)さん(ベナルマデナ・コスタ在住)2008年5月13日掲載

安くて本数が多いのはいいけれど…

私たちの家があるベナルマデナ・コスタ。そしてそこから海沿いの国道340号線を東へ5キロのトレモリーノス。20キロのマラガ。西へ10キロのフエンヒローラ。北の方へ坂を2キロ上るとアロージョ・デ・ラミエル。この5つの街がおおよその私たちの生活圏だ。食料品や日用品などの生活必需品を買うのは全てこのエリアである。ベナルマデナ市のもうひとつの町ベナルマデナ・プエブロには市役所があるので、ときに行かなくてはならないこともあるが、その他はほとんど行くことがない。
私たちのこのエリア内の交通手段はほとんどバスである。一番遠いマラガまでは割引カードで75セントと、日本でなら100円という感覚で安い。それに、15分間隔(フエンヒローラ行きは30分間隔)で運行されている便利さもあって、車を持たない私たちはどこへ行くにもこのバスを足代わりに利用している。
と、ここまでは移動の便利さが表の顔をしているが、中身を知ると別の顔が見える。
まず、バスに乗って料金のおつりが1セント足りないことはしょっちゅうある。これは黙ってチップと思ってあきらめる。このことはまあ我慢するとして、時間がまったくあてにならない。停留所には23分、38分、53分と停車時間が分刻みの時刻表が貼られているが、これは無視しないとバスの利用はできない。
マラガで友人夫妻と時間を決めて待ち合わせをしたときのことだ。あのときは50分も待たされた。そのときにはさすがに腹が立った! 結局友人を1時間近くも待たせてしまった。こういうときに限ってなかなかバスが来ない。なかなか来ないから、停留所ごとの乗客が多くなり、そのためにますます遅れるということになる。
そうかと思うと2、3台でつながってくることもある。そんなときには2台のバスが抜きつ抜かれつしながら、ひと停留所置きに乗客をひろって並走する。
時間通りに走れないという事情も理解できないわけではない。外国人の乗客が多いから、言葉がわからずスムーズに行き先を告げたり切符を買ったりできない。
それに、わざわざバスに乗り込んできて道を聞いたりする人もいる。だから、もたもたすることが多くなり、遅れるというわけだ。このような事情のなかをバスは走らなくてはならないのだから、時刻表には11時台4本、12時台5本などと表示しておけばよいといつも思のだが…。

マラガ行きのバスのなかはいつも混雑している。

マラガ行きのバスのなかはいつも混雑している。

マラガ行きの110番の2両仕立てのバス。我が家の最寄りのバス停が始発。

マラガ行きの110番の2両仕立てのバス。我が家の最寄りのバス停が始発。

バスに乗ったらトマトが増えた?

さて。バスに乗ってからの話だが――。
「次の停車駅はホリカワ―。堀川でございます。お降りの際にはお忘れ物のないようお仕度願います。当バスは安全運転には充分に心がけておりますが、やむなく急停車をする場合がございます。その際にはどうぞお気をつけくださいますようお願いいたしまぁす。…次はぁ、ホリカワー。堀川でございます」
日本のこんなバスに乗り慣れている私たちは、まずびっくりさせられる。なにしろ、次の停留所を告げるアナウンスがないのだ。このバスの乗客には外国人が多い。まだ、地理に不案内なので目的地に近づくと決まって腰を浮かせてキョロキョロとあたりを伺う。「ここだ、ここだ」と見覚えのある建物を指差してから、急いで降車の合図のボタンを押す。と、これが通常の風景である。
運転手の方はというと、停車も発車もすべて無言である。いや、ときどき乗客とベラベラっと喋ってはいる。そして突然ガハハハッと大声をたてて笑う。
その上、市街地をはずれると俄然張り切って猛スピードで走る。そして、平気で急ブレーキをかける。
僕はこの急ブレーキで体が飛んで、腕時計のバンドを壊したことがある。24ユーロの損害であった。
もっとも得したこともあった。マラガの市場に買い物に行った帰りのバスのなかのことである。このスピードと急ブレーキの連続でトマトが10個ほど通路に散乱したのだ。乗客が夫々拾って「誰のだ。誰のだ」と騒ぐ。
そして、カリート(車の付いた買い物かご)を横に置いている僕に「お前んのだろう」という。「えぇッ。俺。こんなトマト買ったっけか」とカリートのふたを開けてみる。
返事をしないのに「お前んのだ。お前んのだ」と勝手にトマトを手渡しでなかへ入れてくれる。あわてて「ムチャスグラシアス(どうも、ありがとう)」と云ってふたを閉めた。
ところが、そのうちに後ろの方でなにやらガヤガヤとしだした。どうやら、「それ、俺んのだ」という人が現れたらしい。「えっ、アンタんの?」と振り返ったのだが、後ろの方で手を振っているだけで、取りに来ようともしない。
停留所でバスから降りた男が、外でニヤニヤしながら空になったビニールの袋を振っている。
「あれ、やっぱり俺んのだったんだぞ」
そう云っているようだ。
家に帰って買ってきたものを取り出してみると、私たちが買ったトマトの他に数個のトマトが余分にあった。もっとも、バスで儲かったのはこのときだけだ。

買い物の必需品カリートは10日分の食料を運べる。マラガ行きのバスを待つ。

買い物の必需品カリートは10日分の食料を運べる。マラガ行きのバスを待つ。

ベナルマデナ・コスタを走るバスからの風景。

ベナルマデナ・コスタを走るバスからの風景。

Photo: Masahiro Ohashi

Photo: Fumiya Kamakura

上野勲(いさお)さん、展子(のぶこ)さんプロフィール

海外派遣教員としてマレーシアで3年間働いた経験から、退職後は海外で暮らしたいと考えるように。1987年にはじめて南スペインを訪れ、1,600万円で3LDKの2階建ての1軒家を購入。2004年7月からベナルマデナ・コスタでのロングステイをスタートさせた。 ビザは「非営利目的の居住査証」を取得。愛称は、おったとおのぶ。

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