各国ロングステイヤーからの現地レポート
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フィリピンインターナショナルな「おらが村」

上野勲(いさお)さん、展子(のぶこ)さん(ベナルマデナ・コスタ在住)2008年7月15日掲載

夏の間だけ滞在する隣人が多い

 2008年6月3日、夜10時。日本への一時帰国から3か月ぶりに、まだ明るさの残るマラガ空港に降り立った。
タクシーで20分ほどで我が家のある「ウルブ」に着くと、夜勤の守衛さんがニコニコとゲートを開けて迎えてくれた。
「ウルブ」は正確には「ウルバニザシオン」という。長ったらしくて舌を噛みそうなので私たちは省略して「ウルブ」と呼んでいる。「我がウルブ」といったりするが、最近は「おらが村」と呼ぶ方が多い。「ウルブ」をスペイン語の辞書で引いてみると、「団地」と訳してある。しかし、日本の団地とはだいぶイメージが違う。
「おらが村」の44軒は、傾斜した土地に沿って長屋ふうにロの字型に囲んでいる。家の前を歩道が一周しており、その歩道に囲まれた中央のスペースに駐車場と20メートルほどのプール、それに小さなサウナ小屋がある。常住者は私たちも含めて15軒ほどで、他の家の住人のほとんどは夏の間1か月ほど滞在するだけだ。住人の国籍は、知っているだけでスペイン、イギリス、スウェーデン、ベルギー、フランス、そして私たち日本人。我が家の両隣はマドリードとベルギーからやってくる家族で、普段は留守である。
これから、夏休みになるから、「おらが村」の住人も勢ぞろいして大いににぎやかになりそうだ。

おらが村の入り口ゲート。左隣は隣のウルブがあって、100軒程のマンション群が広がる。

おらが村の入り口ゲート。左隣は隣のウルブがあって、100軒程のマンション群が広がる。

ウルブのまん中にあるプールからわが家を望む。このプールを囲むように家が並ぶ。

ウルブのまん中にあるプールからわが家を望む。このプールを囲むように家が並ぶ。

実は同い年だったモニカばあちゃん

一時帰国から戻った翌日、同じウルブ内に住むモニカばあちゃん、いや、モニカのところにあいさつに行った。
「オラ!モニカ。しばらく!」
「あら!おかえりなさい。元気? ノブコは? 日本の家族はみんな変わりなかった?」
「みんな元気だったよ。で、モニカは?」
「それがだめなのよ。毎日泣いてばかりいるの。…死んじゃったのよ」
「え?」
一瞬ご主人のモレノさんが亡くなったのかと思って、頭がくらっとした。
「だ、だ、だれがさ…」
「ユキよ」
「…なんだ。ユキかあ」
「もう、何ものどに通らないの」
どうりで、いつもの陽気さがなく、しょんぼりしていたわけだ。
モニカは昔パリジェンヌであった。モニカ家のサロンにはフランスから運んできたというクラシックな飾りのついたソファアとマリー・アントワネットの白い胸像がある。これがモニカの自慢である。7歳で両親とパリに移住したというスペイン人のモレノさんと結婚して、ご主人の定年を迎えてここへ移り住んだのだそうである。僕たちと同じ年金生活者だ。
ここへ来た頃の話だが、毎朝夕、犬を散歩に連れて行くおばあちゃんとよく顔をあわせた。あいさつをかわすようになって間もなく、犬の名前がユキだと教えられた。
「ユキって、日本の女の子の名前だよ」
「そう。アニメのハイジからもらったの」
ハイジの可愛がっていたヤギのユキだというのでおどろいた。
ところで、一年ほど前までわが家ではモニカのことを「モニカばあちゃん」と呼んでいた。ユキをつれた姿かたちはどこから見たって立派なおばあちゃんだ。おのぶとモニカの話をするときはいつも、「さっきモニカばあちゃんと会ったときにね…」というふうであった。
ところがある日、モニカがおのぶの歳を聞いたことがある。すると眼を丸くして両手をあげておどろいている。
「あたしも同じ歳よ! …あなた40歳くらいだと思ってたわ!」
「え? 同い年?」
僕たちもおどろいた。おのぶが40歳? これにもおどろいた。
「ほら、あたしこんなにしわくちゃだもの」
そういって、目尻やほっぺたを両手でひっぱって皺を伸ばして見せる。
「うーん。確かに…たしかだ」
この時、ご主人のモレノさんと僕も同い年であることがわかった。
「僕たち夫婦して同い年同士なんだ」
ちょっと不思議な組み合わせであった。

僕たち夫婦と同い年のモニカとモレノ夫妻。

僕たち夫婦と同い年のモニカとモレノ夫妻。

モニカの家は、我が家とプールをはさんで反対側にある。

モニカの家は、我が家とプールをはさんで反対側にある。

東洋人は10歳若く見られる?

我々はこちらの人より10歳位は若く見られるようだ、というのはこちらに住む日本人の間でよく話すことだ。日本人というより東洋人全体が、西洋人よりも若く見られるということである。
そういえば、スペイン人にしろイギリス人にしろ、ヨーロッパの人は男性も女性も年齢より老けて見えるように思う。街中を歩いている人もバスの乗客も、老人はほとんど大先輩に見える。
なぜだろう? あのドラム缶のような体型のせいだろうか。
友人は、「皮膚の質が違うんだよ」とか、「西洋人と東洋人は肌のきめの細かさがちがうんだよ」などという。そういえば皮膚のたるみ具合がだいぶ違うような気もする。
僕たちはベナルマデナ市の年金生活者シニア会の旅行に参加することがあるが、ここでも同行者から、おのぶは若く見えると何回かいわれている。その都度おのぶは、「グラシアス!」などといって悦に入って機嫌がよい。
「モニカばあちゃんさあ。あたしのこと何歳に見えるっていってたっけ?」
同年齢だとわかった日、家に帰るとすぐに、おのぶが鼻をうごめかしていう。
「おったはモレノさんと同い年くらいに見えるわよねえ」
日本にいる次女が、この9月に出産する予定である。僕たちにとって5人目となる孫が生まれるわけだから、おのぶがおばあちゃんであることは紛れもない事実だ。
だけどおのぶは、孫たちには僕を「おじーじ」と呼ばせておいて、自分のことは「おぶうちゃん」と呼ばせている。日本に帰ると孫たちどころか娘たちまでがそろって「おじーじ」「おぶうちゃん」と呼ぶ。
「それじゃあこれから、おのぶをおのぶばあちゃんって呼ばにゃんねえ」
「…」
我が家で「モニカがね…」というようになったのは、この時からである。

各家のまわりには細い歩道がある。

各家のまわりには細い歩道がある。

ゴルフ場のユウカリの林に囲まれたおらが村。

ゴルフ場のユウカリの林に囲まれたおらが村。

Photo: Masahiro Ohashi

Photo: Fumiya Kamakura

上野勲(いさお)さん、展子(のぶこ)さんプロフィール

海外派遣教員としてマレーシアで3年間働いた経験から、退職後は海外で暮らしたいと考えるように。1987年にはじめて南スペインを訪れ、1,600万円で3LDKの2階建ての1軒家を購入。2004年7月からベナルマデナ・コスタでのロングステイをスタートさせた。 ビザは「非営利目的の居住査証」を取得。愛称は、おったとおのぶ。

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