オペラ入門にぴったり
あまりにも有名なモーツァルト晩年の歌劇「魔笛」を、シェークスピア映画の第一人者ケネス・ブラナーが斬新な映像で完全映画化に取り組んだこの作品は、クラシックファンだけでなく、ふだん歌劇に縁のない映画ファンにとっても映像と共に本場のオペラを満喫できる格好の入門編だ。
原作の舞台である古代エジプトから時空を超えて、舞台は第一次大戦前のヨーロッパへと移る。その時代背景と雄大に展開するドラマを予感させるかのように、冒頭の3分間は序曲とともにカメラは空中から塹壕そして戦闘シーンへ。息もつかせぬシーンで一気に観客を惹きつける。このダイナミックなカメラワークは実にみごとだ。そして戦闘で傷ついた主人公の兵士タミーノ(ジョセフ・カイザー)は、夜の女王に仕える3人の看護婦に救われ魔法の笛を手に誘拐された娘パミーナ(エイミー・カーソン)を救い出す冒険の旅に出る。
ストーリーは古典的な恋愛冒険劇だが、途中、善玉と悪玉が入れ替わるという奇想天外な展開がおもしろい。「戦争には善も悪もなく、全ての戦いが不幸である」という作者モーツァルトの戦争風刺であり、当時としては画期的な視点といえよう。
主人公タミーノを演じるアメリカ人若手テノール歌手ジョセフ・カイザーの甘いマスクは、オールドファンには「ウェストサイド物語」のリチャード・ベイマーをほうふつとさせる。とくに、ふたりがはじめて出会うダンスシーンは、トニーとマリアの出会いを思わず重ね合わせてしまう陶酔感あふれる名場面だ。
この作品には吹き替えなしで本物のオペラを聴かせるため、いわゆる映画スターは出演せずファンにはなじみの薄いキャスティングではあるが、ドイツ、アメリカ、イギリス、ロシアなどから集められた世界最高峰の歌手たちが、2時間19分にわたって魔笛全22曲を披露する。
モーツァルトが35歳で亡くなる1791年に初演され、以来ビゼーの「カルメン」と並び最も上演回数の多いオペラとして知られてきた「魔笛」は、ケネス・ブラナー監督の斬新な映像マジックとともにミュージカル映画の歴史にも新たな足跡を残すことになった。
(文/神吉英行 Text:Hideyuki Kanki)
[原題]The Magic Flute
[URL]www.mateki.jp
[監督]ケネス・ブラナー(「ヘンリー五世」「から騒ぎ」)
[出演]ジョセフ・カイザー、エイミー・カーソン、ルネ・バーべ
[配給]東芝エンタテイメント
