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映画/ONCE ダブリンの街角で(2007年11月3日渋谷シネ・アミューズほか全国順次ロードショー)

「ONCE ダブリンの街角で」より

「ONCE ダブリンの街角で」より

「ONCE ダブリンの街角で」より

「ONCE ダブリンの街角で」より

「ONCE ダブリンの街角で」より

「ONCE ダブリンの街角で」より

本物のミュージシャンによる魂を揺さぶる名演

かつてアイルランドと言えばIRAによる過激テロがニュースをにぎわし、貧しく暗い北の島国のイメージしかなかった。そんなイメージを一新させたのは80年代のU2のロックでありエンヤの澄んだ歌声だった。今ではIRAよりミュージシャンの方がアイルランドを有名にしている。首都ダブリンの街角にはストリートミュージシャンがたむろし、アイリッシュパブのあちこちから演奏が聴こえてくる。そんな土壌から産まれた一篇のミュージックビデオを見ているような落ち着いた味わいのある音楽映画だ。

映画の冒頭まるでドキュメンタリフィルムのようなざらついた質感の画面の中で主人公の男は街角に立ちギターを弾きながら歌っている。周りをうろつくコソ泥とのちょっとしたいさかいの後ひとりの女性が彼の前で立ち止まる。チェコから移民してきた花売りの貧しい女との出会いだ。彼女もかつてはピアニストを目指していたという。音楽を通じて会話が始まり次第に芽生える友情。しかし、貧しい移民暮らしではピアノを買う余裕がない。楽器店の昼休みに束の間ピアノを弾かせてもらうのが唯一の楽しみだった。その店でギターとピアノのささやかなセッションが始まった時、ふたりの友情が次第に愛情に変わろうとしていた。

彼女をアパートまで送って行ったある夜、部屋に誘われた彼は期待を胸にドアを開ける。ところがせっかく訪れた彼女のアパートには年老いた母親と幼い娘が暮らしていた。彼はそんな現実も受け入れ愛を育んでいこうとするが、障害はそれだけでは済まなかった。結局、男はロンドンに出て本格的な歌手を目指す決心をし、最後に一枚のプロモーションCDを録音する。これまで書き溜めてきた自らの曲に渾身の思いを込めて……。

本作品が日本映画のように甘く切ないだけの話に終わらないのは、移民問題を抱えるアイルランドの重い現実が背景にあるからだろう。彼女のアパートには夜になるとテレビを買えない付近の住民たちがテレビを見にやって来る。英語の勉強をするのだという。言葉を覚えるだけでも大変な環境下で果たして移民たちには将来に何の希望があるのだろうか。

この映画が素晴らしいのは間違いなく音楽が本物だからだろう。全て主演グレン・ハンサードの書き下ろし。しかも素朴で力強い名曲ぞろいだ。彼は日本では無名だがアイルランドの人気ロックバンド「ザ・フレイムス」のリーダー。共演のマルケタ・イルグロヴァもチェコの新鋭シンガーソングライター。主演のふたりにプロの役者ではなくミュージシャンを据えたのが成功の要因だろう。クライマックスのスタジオシーンは観客が実際の録音に立ち会っているような緊張感と感動にあふれていた。アイルランドの音楽はいつもどこか暗い部分を引きずっているが、グレンの魂を揺さぶるような真摯な歌い方は心に迫るものがある。いつか彼のライヴに立ち会ってみたい。

(文/神吉英行 Text: Hideyuki Kanki September 9, 2007)

2007年11月3日(祝)より渋谷シネ・アミューズほか全国順次ロードショー

[原題]ONCE
[URL]www.oncethemovie.jp
[監督・脚本]ジョン・カーニー(「オン・ザ・エッジ19歳のカルテ」)
[主演]グレン・ハンサード(「ザ・コミットメンツ」)
[配給]ショウゲート