9歳の女の子が主演するフランス映画と聞けば、仕草が可愛くてユーモアたっぷりのコメディーを連想するが、見事に期待を裏切ってくれる。この映画は、両親の思想の変化に振り回されながらも、子供ながらに精一杯向き合い、そして成長していく、映画史上初のふくれっ面の女の子が主人公の物語である。
主人公は9歳の女の子、アンナ。弁護士のパパと雑誌記者のママ、6歳の弟フランソワとの4人家族。そして仲良しのお手伝いさんはキューバ人のフィロメナ。フィロメナはキューバ革命でフランスへ逃げてきた移民。アンナ一家は庭付きの家に暮らし、夏休みにはボルドーのおじいちゃんの家でバカンスするブルジョア階級。1970年のパリで優雅に暮らしていた。
ところがそんな一家に異変が訪れる。パパの祖国スペインで反政府運動をしていたおじさんが殺され、おばさんといとこがパリへやってきたのだ。途端にみんなにかまってもらえなくなったアンナ。事態はさらに悪化する。貴族階級育ちのパパがこの事件をきっかけに思想に目覚めてしまう。スペイン内乱やフランス5月革命に参加しなかった体制派のパパが、アジェンダ政権応援のためチリへ旅立ってしまった。やがて帰国したパパは別人みたいに変わっていた。ひげを生やしヒッピーみたいな風貌に。
おかげでアンナの生活は一変した。狭いアパートに引っ越し、毎日ひげだらけの男たちがやってくる。おまけに大好きなキューバ人のお手伝いさんフィロメナはクビになった。アンナはますますふくれっ面になる。「だって新しいお手伝いさんの作る料理はまずいもの!」。
そして、ついにアンナの不満は爆発。
「普通の食事、庭付きの家、夕食前のお風呂のあった前の家に戻りたい。全部前の方が良かった。ぜんぶフィデル・カストロのせいなのね!」
そんなアンナに、パパやひげのおじさんたちが少しずつ説明してくれる。「ダンケツ」とか「トミノブンパイ」の意味を。ママは中絶の自由化運動に熱中している。「チューゼツってなに?」アンナは新しい環境の中、少しずつ学習していくのだった。
キューバの革命家フィデル・カストロの政治思想は当時の欧米諸国に強い影響を与えた。そんな激動の70年代を背景にパリのひとりの少女の成長を描いたこの作品は、ジュリー・ガウラスが監督。これが初長編とは思えない完成度だが、父親は「Z」「戒厳令」「ミッシング」など社会派の巨匠コスタ・ガウラスと聞けばそれもうなずける。
アンナとお手伝いさんとの日常会話や学校でのささいなエピソード、弟を道連れにしたプチ家出などに女流監督ならではのきめこまかい視点で描かれ、政治運動と家族の絆を絶妙にブレンドした。政治をテーマに扱いながらも、おしゃれで、素敵で、面白い作品だ。(文:神吉英行 Text: Hideyuki Kanki)
2008年正月第2弾 恵比寿ガーデンシネマほか全国ロードショー
[原題]La faute а Fidel
[URL]http://www.fidel.jp
[監督]ジュリー・ガウラス
[出演]ニナ・ケルヴェル、ジュリー・ドパルデュー(「ロングエンゲージメント」)、ステファノ・アルコシ(「息子の部屋」)
[配給]ショウゲート
