英国といえば紳士の国のイメージだが、それに反して、東欧ではロシアン・マフィアによる人身売買が横行し、ロンドンがその拠点となっているという。その契約を「イースタン・プロミス」と称する。「法の泥棒」とも呼ばれるロンドン闇社会をテーマに、鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督は、重厚でスリルに満ちたサスペンス映画を作り上げた。
ロンドンの床屋で整髪中の紳士が、いきなり音もなく首をかき切られる。クールで残忍なシーンから映画は幕を開ける。場面がかわって、薬局に入ってきた少女が「助けて!」と言うなり、大量の出血とともにその場に倒れこんだ。どちらも静寂な映像だけにかえって不気味で、もっと恐ろしい事が起こりそうな予感に思わず息を呑んでしまう。
一転して平和な病院風景。そこに収容された少女は、女児を出産するが死んでしまう。立ち会った助産師アンナ(ナオミ・ワッツ)は、遺品の日記に挟まれていたロシア料理店のカードを手掛かりに少女の身元を探ろうとするが、実はその店がロシアン・マフィアの拠点であり、料理店オーナーのセミオンこそマフィアのボスだったのだ。
真相を探ろうとするアンナに対し、ロシア料理店に雇われたばかりの謎の運転手ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)は、「これ以上深入りするな」と警告する。しかし、アンナは日記の秘密を解読してしまい、アンナばかりか病院の女児まで狙われる羽目に陥る。マフィアの一員であるはずのニコライはなぜかアンナを守り、彼女たちを守る決死の作戦に出るのだった…。
この映画には派手な銃撃戦はいっさい出てこない。凶器にナイフしか使われないが、むしろその殺し方は冷徹で残忍だ。主演のヴィゴ・モーテンセンは、アカデミー賞主演男優賞ノミネートに相応しい渾身の演技で、見事に謎の人物を演じきった。特に、公衆浴場で素裸のニコライが二人の殺し屋に襲われる格闘シーンは、「007危機一発」のショーン・コネリーと並び長く映画史に語り継がれるだろう。(文:神吉英行 Text: Hideyuki Kanki)
6月上旬よりシャンテシネ、シネリーブル池袋ほか全国ロードショー
[原題]EASTERN PROMISES
[URL] http://www.easternpromise.jp/
[監督]デヴィッド・クローネンバーグ(「ザ・フライ」「ヒストリー・オブ・バイオレンス」
[出演]ヴィゴ・モーテンセン(「ロード・オブ・ザ・リング」)、ナオミ・ワッツ(「マルホランド・ドライブ」)、ヴァンサン・カッセル、アーミン・ミューラー・スタール(「シャイン」)
[宣伝]ファントム・フィルム
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